コラム第21弾

次期学習指導要領案をどう読むか

――情報教育の拡充、生成AI、調整授業時数。学校現場に迫る大きな転換

文・磐田井|Ban.Tai Education Design

2026年9月25日、文部科学省の中央教育審議会・教育課程企画特別部会で、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」が示されました。

報道では「情報教育拡充」「2028年度から先行実施」といった見出しが目立ちます。けれども、学校現場で大切なのは、見出しだけで驚くことではありません。

何がまだ案なのか。

何がかなり具体化しているのか。

そして、年間指導計画、週案、教科書、校内研修、先生方の仕事の組み立てに、どのような影響が出そうなのか。

ここを落ち着いて読み解く必要があります。

次期学習指導要領案と情報教育拡充を象徴する、教室と職員室をつなぐ教育コラム用サムネイル

まず確認したいこと――これは「告示」ではなく「案」である

今回示されたものは、次期学習指導要領そのものではありません。

文部科学省の配付資料名も、あくまで「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」です。今後、教育課程部会での審議、パブリックコメント、中教審答申、学習指導要領の告示という流れを経て、学校現場に下りてくることになります。

ですから、今の段階で学校が細かな時数や単元配列を固定してしまうのは早すぎます。

一方で、方向性はかなりはっきりしています。

特に大きいのは、情報教育を「各教科で適宜扱うもの」から、「小・中・高を通して体系的に育てる力」へ組み替えようとしている点です。


今回の中心は「情報活用能力」の抜本的向上

今回の案では、情報活用能力を、単なる端末操作やプログラミング体験に限定していません。

柱 学校現場での意味 例
活用 情報やデジタル技術を使って課題を解決する 検索、整理、表現、プログラミング、AI活用
適切な取扱い 安全・倫理・真偽判断を含めて扱う 情報モラル、著作権、セキュリティ、メディアリテラシー
特性の理解 技術の仕組みや限界を理解する AI、ネットワーク、データ、アルゴリズム

つまり、「タブレットを使える子」ではなく、「情報を見極め、選び、組み合わせ、自分の考えをつくれる子」を育てようとしているのです。

これは、現場にとって大きな転換です。

GIGA端末の整備以降、学校では端末活用が急速に広がりました。しかし、端末があることと、情報を吟味して学びを深めることは同じではありません。次期案は、その間にある溝を埋めようとしているように見えます。


小学校――総合に「情報の領域」が加わる

小学校で最も注目されるのは、総合的な学習の時間の中に「情報の領域」を位置付ける方向です。

文科省案では、総合を「探究の領域」と「情報の領域」の二つから構成することが適当だとしています。これは、小学校に独立教科としての「情報科」を新設するという意味ではありません。

総合の中に、一定の独立性を持った情報教育のまとまりを置く、という考え方です。

小学校の情報の領域で、児童がタブレットを使い情報を調べ、比べ、吟味している様子

ここで大切なのは、情報の領域が、探究を邪魔するものではなく、探究を支える基盤として考えられていることです。

文科省案では、二つの学び方が示されています。

学び方 内容 現場でのイメージ
ミニ探究ユニット 探究の流れの中で情報活用能力を学ぶ 課題設定、情報収集、整理・分析、発表を小単元で行う
情報ブロック 基礎的な情報内容を短いまとまりで学ぶ 検索、著作権、ファイル管理、情報の信頼性、AIの特徴など

これは非常に現実的です。

すべてを探究の中で自然に身に付けさせるだけでは、学校差・教師差が大きくなります。一方で、操作だけを切り離して教えても、子どもの学びにはつながりにくい。

だからこそ、「必要な基礎は短く直接扱い、使う場面では探究と結び付ける」という設計になっているのだと思います。


中学校――「技術」から「情報・技術科」へ

中学校では、技術・家庭科の技術分野が、情報教育とより強く結び付く方向です。

案では「情報・技術科」という名称が示されています。従来の材料加工、生物育成、エネルギー変換を単に削るのではなく、情報技術と結び付けて再構成する考え方です。

中学校の情報・技術科で、CAD、3Dプリンタ、センサー、プログラムを組み合わせて学ぶ生徒たち

たとえば、これまで木材加工として扱っていた学習が、設計、3D CAD、試作、センサー、データ、制御へと広がる可能性があります。

これは、ものづくりを軽く扱うということではありません。

むしろ、現代のものづくりに近づける方向です。

手を動かす学びと、データを扱う学びを分けずに考える。ここに次期案の特徴があります。


生成AIは「禁止」でも「丸投げ」でもない

生成AIについても、次期案では避けて通れないものとして扱われています。

ただし、学校で生成AIを使わせればよい、という単純な話ではありません。

AIは、問いを広げたり、文章のたたき台を出したり、別の視点を示したりすることができます。一方で、もっともらしい誤りを返すこともあります。偏りもあります。出典確認を怠れば、学びそのものが浅くなります。

大切なのは、AIの答えをそのまま受け取ることではありません。

AIを使った後に、子ども自身が根拠を確かめ、比べ、考え直すことです。

これからの情報教育では、「AIに聞ける子」ではなく、「AIの返答を材料にして、自分の判断を深められる子」を育てることが必要になります。


教科書会社の動き――正式発表前だが、準備は始まっている

2026年9月時点では、次期学習指導要領そのものがまだ告示されていません。したがって、各教科書会社が次期小学校・中学校教科書の正式な内容を発表している段階ではありません。

ただし、公開されている研究情報や教材情報を見ると、方向は見え始めています。

会社 公開情報から見える方向 注目点
東京書籍 情報活用能力と思考スキルを探究の授業デザインと結び付けて解説 探究と情報活用能力を一体で扱う流れ
教育出版 情報活用能力、情報の時間、生成AI、真偽判断を扱う書籍・教材情報 小学校での体系的な情報教育への準備
開隆堂 技術科領域で情報・技術科への移行やデータ活用、生成AI活用を紹介 中学校技術分野と情報技術の再構成
光村図書など 国語科で情報の扱い、メディア比較、根拠の吟味を重視 メディアリテラシーとの接続

今後、教科書は「厚くなる」だけではなく、むしろ精選が求められる可能性があります。

文科省案では、教科書、教師用指導書、デジタル教材、年間指導計画が授業時数と整合することが重要になります。これは、教科書会社にとっても、学校にとっても、大きな変更です。


調整授業時数制度とつながっている

今回の改訂は、情報教育だけを増やす話ではありません。

同じ資料の中で、調整授業時数制度の創設も示されています。

これは、学習指導要領に示す内容を扱うことを前提にしながら、対象教科等の標準授業時数を下回って教育課程を編成できるようにし、その分を学校のねらいに応じた学習へ充てられるようにする考え方です。

年間指導計画の時数を調整し、情報、探究、教科書精選を見通して配置する校内検討の様子

報道では「15%程度」という数字が注目されます。しかし、ここは慎重に読む必要があります。

文科省案では、最大限大きく取った場合の想定として15%程度が示されていますが、今後の実践の蓄積を踏まえて具体の数字を決定すべきだとされています。

つまり、現時点でソフトウェアや学校の計画表に「15%固定」として入れるのは危険です。

Ban.Tai Education Designで進めている調整授業時数対応版でも、制度未確定の値をコードに固定しない方針を取っています。今回の資料を読んでも、その方向は妥当だと考えます。


年間指導計画・週案はどう変わるか

学校現場に最も直接影響するのは、年間指導計画です。

小学校では、総合の中に「探究の領域」と「情報の領域」をどう配置するかが問題になります。

年度当初に情報の領域を集中的に扱い、その後の各教科や総合の探究で活用するという組み方も考えられます。

中学校では、情報・技術科の内容、担当者、実習環境、評価規準、時間割配置が課題になります。

さらに、調整授業時数制度が導入されると、単に教科ごとの時数を入力するだけでは足りません。

  • どの教科から、何時間を調整したのか。
  • その時間を、どの学習に充てたのか。
  • 1/3コマ、2/3コマのような端数をどう扱うのか。
  • 標準時数、学校採択時数、実績時数をどう区別するのか。
  • 教科書会社の年間指導計画と、学校独自の計画をどう整合させるのか。

これらを見える形で管理する必要が出てきます。

ここは、Ban.Taiの教育計画システム、週案、調整授業時数対応版が最も力を発揮できる領域です。


現場が今から準備できること

今すぐ全校で細かな制度対応を始める必要はありません。

しかし、次の準備は始めてよいと思います。

  • 小学校3〜6年で、現在どのように情報活用能力を扱っているかを棚卸しする。
  • 総合の年間計画の中に、情報の基礎を扱う余地があるか確認する。
  • 生成AIを使う前に、情報の真偽判断、出典確認、著作権、個人情報の扱いを整理する。
  • 教科書会社の年間指導計画やデジタル教材の更新情報を追う。
  • 調整授業時数の制度値は固定せず、設定で変えられる形にしておく。
  • 校内研修では、端末操作よりも「情報をどう吟味するか」を中心に置く。

特に小学校では、ICTが得意な先生だけが担当する形にしてしまうと続きません。

すべての先生が無理なく扱えるように、短い情報ブロック、共有教材、年間計画上の位置付けを整えることが大切です。


おわりに――情報教育は、先生を忙しくするためではない

新しい領域、新しい教科、新しい制度。

こう聞くと、現場ではどうしても「また仕事が増えるのか」と感じます。

その不安は当然です。

けれども、今回の改訂案が本来目指しているのは、単なる追加ではありません。

教科書を精選し、時数を柔軟にし、情報活用能力を学びの基盤として整え、子どもたちが自分で考え、判断し、表現できるようにすることです。

大切なのは、制度の言葉をそのまま現場へ押し込むことではありません。

学校の年間計画、週案、教材、評価、校務の流れの中に、無理なく置き直すことです。

Ban.Tai Education Designは、教育現場40年の視点から、先生方が制度変更に振り回されず、見通しを持って準備できる仕組みを整えていきます。

次期学習指導要領は、まだ案の段階です。

だからこそ今は、断定ではなく、備えの時期です。

学校現場に必要なのは、焦りではありません。

確かな情報を見極め、変更可能な形で準備しておくことです。

文・磐田井(Ban.Tai Education Design 代表 / 元小・中・高校教員)


参考資料

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