コラム第18弾

子どもを思う気持ちに、少しの余白を

――教職40年と父親としての反省から考える、親子の距離感

文・磐田井|Ban.Tai Education Design

大切なお子さんには、幸せになってほしい。できれば大きな失敗をせず、自分の力で人生を歩める人になってほしい。

親であれば、そんな願いを抱くのは自然なことです。

けれど、子どもを思って差し出した手が、いつの間にか、その子が自分で試す機会を奪ってしまうことがあります。「あなたのために」と伝えた言葉が、思いがけず重荷になっていることもあるでしょう。

教職40年の歩みの中で、私は、お子さんの成長を願う多くの親御さんと出会ってきました。そして私自身も、一人の父親として、迷い、失敗し、後になって気づく経験を重ねてきました。

今日は、親を採点するためではなく、日々の関わりを少し楽にするために、一緒に立ち止まってみたいと思います。


1. 小さな菜園で、私が見落としていたもの

まだ父親として駆け出しだった頃、家族で菜園を始めたことがありました。

小さな息子が、泥だらけになりながら苗を植えようとしていました。穴の深さも、苗の置き方も、私から見れば心もとない。見ているうちに、つい口と手が出てしまいました。

「ああ、そこじゃないよ。もっと深く掘らなきゃ」

当時の私は、正しい方法を教え、うまくできるようにしてやることが、親の役目だと思っていました。失敗させたくない。せっかくなら、きちんと育ててやりたい。その気持ちに、うそはありませんでした。

けれど、手を出したときの息子の表情が、今も心に残っています。楽しそうだった顔から、すっと勢いが消えたように見えたのです。

息子が何を感じたのか、本当のところは本人にしかわかりません。ただ、今振り返ると、私は「苗を正しく植えること」ばかりを見ていたのだと思います。

息子は、自分で土を掘り、自分の手で苗を置く、その手応えを楽しんでいたのかもしれません。

私が急いで整えようとした場所には、息子が自分で経験するはずだった時間がありました。

小さな菜園で苗を植える息子と、それを見守る父親(家庭菜園の温かい風景)

2. 一つ目の癖――先回りして、答えまで渡してしまう

子どもが困っていると、助けたくなります。

宿題で手が止まっていれば解き方を教え、支度が遅ければ代わりにそろえ、言葉に詰まれば先に説明してしまう。忙しい毎日の中では、そのほうが早く済むこともあります。

手伝うこと自体が悪いわけではありません。年齢やその日の体調、得意不得意によって、必要な支えは違います。

少し確かめたいのは、今、この子は助けを求めているのか。それとも、まだ自分で試している途中なのかということです。

すぐに代わる前に、こんなふうに尋ねてみてはどうでしょう。

「手伝おうか。それとも、もう少し自分でやってみる?」

手伝ってほしいと言われたら、「どこを手伝おうか」と続けてもよいですね。全部を引き受ける以外にも、最初の一歩だけ一緒にやる、道具を押さえる、ヒントを一つ出す、といった関わり方があります。

見守ることと、助けること。その間には、いくつもの選択肢があるのです。


3. 二つ目の癖――「こうあるべき」が、会話を埋めてしまう

時間を守ってほしい。人に迷惑をかけないでほしい。勉強にも、もう少し取り組んでほしい。

親の願いには、それぞれ理由があります。ただ、それがいつも「どうしてできないの」「普通はこうするでしょう」という言葉になると、子どもの事情を聞く余地が小さくなってしまいます。

できなかった理由を尋ねたつもりでも、子どもには責められているように聞こえることがあるでしょう。

例えば、宿題が進んでいないとき。

「まだ終わっていないの?」の前に、「どこで止まっているの?」と聞いてみる。すると、問題がわからないのか、量が多く感じられるのか、疲れているのかを、一緒に確かめる入口になります。

必要な約束は、伝えてかまいません。その際には、子ども自身への評価と、今困っている行動を分けて考えたいものです。

「あなたはだらしない」ではなく、「朝、探し物で困るから、置く場所を一緒に決めよう」。

直したいことを具体的にすると、次にできることも考えやすくなります。

親の理想を話す時間と同じように、子どもの言い分を聞く時間も持っていたいですね。


4. 三つ目の癖――気持ちを受け止めることと、要求をかなえることが重なる

泣かせたくない。がっかりさせたくない。せっかく一緒に過ごせる時間なのだから、楽しくしてあげたい。

そんな気持ちから、断りにくくなることもあります。

けれど、子どもの気持ちを大切にすることと、すべての要求に応じることは、分けて考えられます。

「もっと遊びたかったね。でも、今日は帰る時間だよ」

名残惜しさは受け止めながら、帰るという約束は伝える。残念な気持ちをすぐに消そうとせず、そばで付き合うことも、一つの関わり方です。

約束を決めるときには、大人の都合だけで増やしすぎず、子どもにもわかる言葉で理由を伝えたいものです。

そして、守れなかったときには、叱るだけで終えずに「何が難しかったかな」「次はどうしようか」と振り返る。

境界線は、子どもを押さえつけるためではなく、一緒に暮らすうえで大切にしたいことを共有するために引く。私は、そう考えたいと思っています。


5. 四つ目の癖――忙しさの中で、「あとで」が重なってしまう

「ねえ、聞いて」

その声に、すぐ応じられないことがあります。仕事、家事、介護、明日の準備。大人にも、待ってくれない用事があります。

一度聞けなかったことや、十分に遊べない日があることだけで、自分を責める必要はありません。

ただ、「あとでね」と伝えたままになっていたことに気づいたら、こちらから戻ってみたいのです。

「さっきの話、聞かせてくれる?」

長い時間を確保できなくても、食事の前の数分、帰り道、寝る前のひととき。手元の作業をいったん止めて、その子の言葉に耳を向ける時間を探してみる。

話したくない様子なら、無理に聞き出さなくてもよいでしょう。

「話したくなったら、聞くからね」

そんなふうに、話せる場所を残しておくこともできます。

忙しいことと、子どもを大切にしていないことは同じではありません。限られた時間の中で、どうつながり直せるかを考えていきたいですね。


6. 四つの癖は、親に貼るラベルではありません

ここまでの話を読んで、「どれも自分に当てはまる」と感じた方もいるかもしれません。私自身にも、思い当たるところがあります。

余裕がある日は待てても、時間に追われれば急かしてしまう。昨日は丁寧に聞けたのに、今日は強い口調になってしまう。

人の関わり方は、いつも一定ではありません。

また、子どもの困りごとを、親の接し方だけで説明することもできません。学校や友達との関係、生活の変化、その子自身の特性など、さまざまな事情があります。

この四つは、親を分類するためのものではなく、今日のやり取りを振り返るための手掛かりです。

親子の関わりを楽にする「4つの癖」と「言葉の転換」インフォグラフィック(Ban.Tai Education Design)
気づいた関わり方 少し変えてみる言葉 心の余白の持ち方
すぐに代わってしまう 「どこを手伝おうか?」「もう少し自分でやってみる?」 最初の一歩や道具を押さえるだけの部分支援にとどめる
「こうすべき」が続く 「何が難しかった?」「どこで止まっているの?」 人格の否定ではなく「いま困っている行動」を分けて考える
断るのがつらくなる 「そうしたかったね。でも、今日はここまでだよ」 名残惜しさは受け止めつつ、暮らしの約束は穏やかに守る
「あとで」が続く 「さっきの話、今なら聞けるよ」「話したくなったら教えてね」 1分でも作業を止め、耳を向けてつながり直す

毎回うまく言えなくても大丈夫です。一つ思い出せる言葉があれば、そこから始められます。


7. 斜めに育ったトマトが、私に残した問い

菜園で息子が植えたトマトは、少し斜めに育ちながらも、やがて赤い実をつけました。

それを見たとき、私は、自分が思い描いた形に整えることを急ぎすぎていたのではないかと感じました。

もちろん、植物と子どもの成長を、そのまま重ねることはできません。それでも、あのトマトは、私の中に一つの問いを残してくれたのです。

「手を出す前に、もう少し、この子のやり方を見ていられなかっただろうか」

親が完璧である必要はない。必要なときには支えながら、子どもが試す時間を大切にしたい。

そう考えるようになってから、私は、自分が正しく導くことばかりに向いていた目を、少しずつ息子の手元へ戻せるようになった気がします。

夕暮れの菜園で力強く育ち、赤い実をつけた斜めのトマト(自然の成長を見守る象徴)

8. 明日からできる、小さな「心の余白」

大きく変わろうとすると、それが新しい負担になることもあります。まずは、日常の一場面だけで試してみませんか。

① 安全に試せる時間を残すこと

危険がなく、やり直せる場面なら、すぐに正解を示さず、少し待ってみる。うまくいかなければ「次はどうしてみようか」と一緒に考える。失敗させることを目的にせず、自分で試す機会を残すのです。

② 助言の前に、希望を尋ねること

「今は聞いてほしい? 一緒に考えたい?」 年齢に合わせて言い方を変えながら、何を求めているか確かめてみる。「わからない」と返ってきたら、選択肢を一緒に探せばよいのです。子どもが一人で答えを持っている必要はありません。

③ 言いすぎた後に、戻ること

「さっきは大きな声になったね。ごめんね。もう一度、話を聞かせて」 謝ったうえで、必要な約束をあらためて話すこともできます。一度も間違えないことを目指すより、間違えたときに関係を結び直すことを大切にしたいですね。

④ 親自身の休息を後回しにしすぎないこと

お茶を一杯飲む。数分だけ座る。家事を一つ明日に回す。身近な人に「今日は少ししんどい」と伝える。 休む時間を作ることさえ難しい日もあるでしょう。そんなときは、自分の工夫だけで解決しようとせず、家族や学校、地域の相談先などに、手を借りることも考えてください。

子どもを支える大人にも、支えが必要です。


9. 今日できなかったことより、明日つながる一言を

子育てを振り返ると、「あのとき、別の言い方ができたのに」と思う場面があります。時間を戻せないことが、つらくなる日もあるでしょう。

けれど、今からかけられる言葉もあります。

  • 「さっきは急がせてしまったね」
  • 「自分でやってみたかったんだね」
  • 「今日はどんなことがあった?」

立派な言葉でなくてよいのです。

子どもを思う気持ちに、ほんの少しの余白を。その余白に、子どもの言葉や、子どもなりのやり方が入ってくるのを待ってみる。

私も、まだ学びの途中です。

明日、つい手を出したくなったときには、あの菜園の小さな手を思い出しながら、少し深呼吸をして、温かく見守ってみたいと思います。

文・磐田井(Ban.Tai Education Design 代表 / 元小・中・高校教員)


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