コラム第13弾

「常用漢字」という山を登ろう

――漢検準2級・2級への道と、大人になってから育てる言葉の力

文・磐田井|Ban.Tai Education Design

今日は、少し背筋を伸ばして話そうか。

前回歩いた「同音異義語の森」。同じ音なのに、意味によって使う漢字が変わる。その面白さと難しさを、少し感じてもらえただろうか。

今回、私たちが目指すのは、その先にそびえる「常用漢字」という山だ。漢検準2級、商しく2級を目指す人にとって、大きな目標になる山だね。

もっとも、登る前から気負いすぎる必要はない。

2136字と聞けば途方案もなく思えるけれど、君はもう、その多くと出会っている。学校の教科書で、駅の案内で、新聞で、仕事の書類で。今回の学びは、知らない漢字を増やすとともに、出会ってきた言葉を、自分で使える言葉へと育てる時間になる。

小・中・高校の教育現場で40年を歩んできた私が、この学びで大切にしたいのも、そこなんだ。

合格証書は、努力が形になるうれしい一枚だ。その先に、文章を前より深く読める自分、伝えたいことに合う言葉を選べる自分が待っている。

そんな登山の話をしよう。


1.常用漢字は、日本語を閉じ込める囲いではない

常用漢字表は、社会生活で日本語を書き表すときの目安として設けられている。2010年の改定による2136字が、現在の常用漢字だ。

ここで覚えておきたいのが、「目安」という言葉だよ。

常用漢字表に入っていない漢字を使ったからといって、間違いになるわけではない。専門分野の言葉や、人名・地名などには、表の範囲に収まらない漢字もある。文化庁も、専門分野や個人の表記、固有名詞まで一律に制限するものではないと説明している。

だから、「2136字を覚えれば、日本語で困ることがなくなる」とまでは言えない。

同じ漢字でも、組み合わせによって意味が変わる。文章には、言葉にされていない気持ちや、その場の事情もある。漢字の知識は、それらを読み解くための土台になるものだ。

例えば、「意向を確認する」と「意図を確認する」。

どちらも相手の考えを確かめる表現だけれど、前者は「どうしたいと思っているか」、後者は「何をねらっているか」に目が向いている。

字を読める。その意味がわかる。場面に応じて使い分けられる。

漢検の学習でも、この三つをつなげていきたいね。


2.準2級から2級へ――増える185字以上の違い

まず、目標の輪郭を確かめよう。

項目 準2級 2級
程度 高校在学程度 高校卒業・大学・一般程度
対象漢字数 1951字 2136字
満点 200点 200点
公式の合格基準 70%程度 80%程度
点数に換算した目安 140点程度 160点程度

いずれも、漢字を理解し、文章の中で適切に使う力が求められる。読み書きに加え、送り仮名、四字熟語、対義語・類義語、熟語の構成なども学習範囲に含まれる。

対象字数の差は185字。

「それなら、追加の185字だけ覚えればいいのかな」と思うかもしれないね。しかし、2級を目指すときには、すでに知っている漢字の読みや使い方も、あらためて点検したい。

合格基準が10ポイント上がるということは、200点満点なら約20点の差になる。

準2級で残っていた「読めるけれど書けない」「意味はぼんやりわかる」「送り仮名で迷う」といった部分が、そのままでは重荷になりやすいんだ。

だから、最初にすることは、難しい漢字を端から覚えることではない。問題を一回分解いて、自分がどこで点を落としているかを知ることだよ。

山の高さと同じくらい、今いる場所を知ることが大切なんだ。


3.先にほどいておきたい「とめ・はね・はらい」の誤解

書き取りの話になると、こんな声を耳にする。

「はねるところを止めたら、全部不正解になるのでしょう」 「字がきれいではないので、自信がありません」

ここは、正確に伝えておきたい。

漢検は、その文字の骨組みが読み取れ、誰が見てもその漢字だと判断できる場合、細部のとめ・はね・はらいの違いだけで不正解にはしないと説明している。

つまり、お手本の印刷文字と、見た目が完全に一致する必要はないんだ。

常用漢字の書き方と本当のルール解説インフォグラフィック(文化庁ガイドラインと検定基準)

ただし、「自分ではそう書いたつもり」で十分ということでもない。例えば「未」と「末」のように、線の長短が別の漢字を区別する場合がある。必要な線が抜けたり、部分がつぶれて判別できなかったりすれば、正しく伝わらない。

学習するときは、次の二つを意識するとよい。

観点 確かめること
漢字として伝わるか 必要な部分があり、別の字と区別できるか
読みやすく整っているか 大きさ、間隔、配置などが読み手に配慮されているか

学校の書写で、とめ・はね・はらいを学ぶことには意味がある。筆の動かし方を知り、整った文字を書く手掛かりになるからだね。

一方で、漢字の正誤と、字をより美しく整える指導を同じものとして扱うと、学ぶ人が必要以上に不安になる。

まずは、その字だとはっきり伝わること。そのうえで、読みやすく整えること。

私は、この順序を大切にしたい。


4.「読める」を「書ける」に変える練習

答えを見れば、「ああ、この字だった」と思う。

ところが、何も見ずに書こうとすると、手が止まる。これは、自分の知識の状態を知るよい機会だ。

そこで、書き取りは次のように進めてみよう。

  1. 問題を読み、答えを見ずに書く。
  2. 正解と比べ、どの部分で迷ったか確かめる。
  3. 意味や使う場面も確認する。
  4. 答えを隠し、もう一度書く。
  5. 翌日以降、再び何も見ずに書く。
「読める」を「書ける」に変える誤答原因別の復習マトリクス図解

例えば、「貢献」の「貢」が出てこなかったとしよう。

正解を十回写しただけで終えると、「見ながらなら書ける」という状態が残るかもしれない。そこで、「地域に貢献する」という短い文と一緒に覚え、時間を置いて書いてみる。

練習の終わりを「何回書いたか」だけで決めず、自分で思い出して書けたかでも確かめるんだ。


5.四字熟語は、四文字の中にある場面をつかむ

四字熟語は、形だけを追いかけると覚えにくい。

「意味」「読み」「表記」を結び付けて、自分の言葉で短く説明してみよう。

例えば、「臨機応変」。

「その場の状況に合わせて、対応を変えること」と説明できたら、次は場面を思い浮かべる。

雨が降ってきた。屋外の活動を予定どおり続けるのは難しい。そこで、目的を保ちながら室内でできる内容へ変更する。

こうすると、四文字が具体的な行動につながる。

さらに、「臨機応変」と「行き当たりばったり」は同じだろうか、と考えてみる。

どちらも予定どおりではない動きに見えることがある。しかし、状況を見て適切に判断することと、十分な見通しを持たずに動くことには違いがあるね。

こうした比較が、言葉の輪郭をはっきりさせてくれる。


6.対義語・類義語は「似ている理由」まで考える

対義語・類義語を学ぶときには、組み合わせを覚えるだけでなく、その関係を説明してみたい。

例えば、「懸念」と「危惧」。

どちらにも、よくない事態を心配する意味がある。ただし、類義語だからといって、どんな文章でも自由に入れ替えられるわけではない。

「この文では、何を心配しているのか」 「この言葉にすると、伝わる感じはどう変わるか」

そう考えて辞書の用例を見ると、語彙が少しずつ自分のものになる。

対義語も同じだ。

「増加」と「減少」なら数量の変化、「抽象」と「具体」なら物事の捉え方が対になっている。

何について反対なのかを言えること。

これを目標にすると、知らない問題にも向き合いやすくなる。


7.熟語の構成は、二文字の間に言葉を入れてみる

熟語の構成が苦手なら、漢字の間に、ひらがなの言葉を補ってみよう。

関係 例 考え方
似た意味を重ねる 岩石 岩と石
反対・対応する意味を並べる 上下 上と下
前の字が後ろの字を説明する 高温 高い温度
後ろの字が動作の対象になる 読書 書を読む
前の字が打ち消す意味を持つ 不明 明らかでない

「読書」は、順番を入れ替えると「書を読む」になる。この動きが見えると、単なる記号の分類ではなくなるね。

部首も、漢字を調べたり、構造を捉えたりする手掛かりになる。ただし、「さんずいがあるから、この意味に違いない」と決めつけるのは早い。

推測したら辞書で確かめる。その一手間が、思い込みを知識へと変えてくれる。


8.過去問は、自分の学び方を点検する道具

過去問の価値は、出題形式と自分の課題を一緒に確かめられることにある。

一回解いて点数だけを見て閉じてしまうのは、もったいない。

まずは、間違えた問題に短い印を付けよう。

  • 「知らない」――言葉や意味を学ぶ必要がある。
  • 「迷う」――似た字や言葉との比較が必要。
  • 「出ない」――答えを見ずに思い出す練習が必要。
  • 「見落とし」――問題文や解答欄の確認が必要。

復習後には、同じ問題だけでなく、別の回の問題にも取り組む。初見の問題で確かめると、力のつき方が見えやすいね。


9.忙しい人のための、12週間の学習モデル

ここからは、仕事や家事、学校生活と両立する人を想定した計画例だ。

忙しい大人のための12週間・漢検学習ロードマップインフォグラフィック
期間 主な取り組み 確かめたいこと
1週目 問題を一回分解く 苦手な分野と間違いの種類
2〜4週目 基本教材で読み書き・意味を確認 未知の語を減らせているか
5〜8週目 苦手分野を重点復習 時間を置いても答えられるか
9〜10週目 別の回の過去問を解く 初見の問題に対応できるか
11〜12週目 本番形式で演習・復習 得点が安定し、見直しができるか

平日は、移動中に5分(読み・意味)、デスクで10分(隠して書く)、週末に30〜60分(まとまった演習)の配分が続けやすい。

忙しい日は一問でもよい。休んだ日があっても、次の日に再開できればよい。


10.受検方法と合格の先で育つ「言葉の力」

受検方法には、紙の検定のほか、テストセンターのPCで受ける「漢検CBT」があり、日程を選べる利点がある。

合格はゴールではなく、言葉を前より深く読み、伝えるための選択肢を増やす手段だ。

今日は、一つの読みを覚える。 明日は、迷っていた二つの言葉を使い分ける。 その次の日は、昨日書けなかった漢字を、自分の手で書く。

さあ、足元の一問から始めよう。山を登る力は、そうやって育っていく。

文・磐田井(Bantai Education Design 代表 / 元小・中・高校教員)


参考:日本漢字能力検定協会「各級の概要」「漢検の採点について」「漢検CBT」、文化庁「常用漢字表」関連資料。

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