コラム第3弾

日本語ワープロの歴史

――専用機から「松」、一太郎、Word、そしてAIへ

いまでは、パソコンで日本語を書くことに誰も驚かない。

しかし、ほんの半世紀ほど前まで、「コンピューターに日本語を入力し、漢字に変換し、きれいに印刷する」ということ自体が大変な技術だった。

この歴史は、一太郎だけの歴史ではない。

東芝「JW-10」から始まる専用ワープロ。

シャープ「書院」。

富士通「OASYS」。

NEC「文豪」。

東芝「Rupo」。

そしてパソコンの世界では、管理工学研究所「松」、ジャストシステム「一太郎」、富士通「OASYS」、Microsoft Wordなどが競った。

やがて専用ワープロはパソコンへ主役を譲り、一太郎もWordとの競争で主役の座を譲った。

新聞・文筆・事務・学校現場を支えた日本語ワープロ約50年(1977~2026)の歴史を、一つの年表としてたどってみたい。


1977年

日本語ワープロ誕生前夜

シャープが日本語ワープロの試作機を公開。

まだ商品ではなかったが、日本語文書を電子的に作るという発想が現実になり始めた。


1978年

東芝「JW-10」発表

1978年9月、東芝がJW-10を発表。

世界初の実用的な日本語ワードプロセッサとされる。

かな漢字変換方式を実用化した画期的な機械だった。

価格

630万円。

個人が買うものではない。

大型の事務机ほどの装置で、主に企業や官公庁向けだった。

しかし、「かなで入力して漢字に変換する」という現在まで続く基本思想が、この時点ですでに確立された。


1979年

日本語ワープロ市場が始まる

2月、JW-10の出荷開始。

9月、シャープが「書院 WD-3000」を発表。

書院はタブレット式文字入力という独自方式を採用した。

価格は約295万円だった。

主な製品

  • 東芝 JW-10
  • シャープ 書院 WD-3000
  • 沖電気 日本語電子タイプライター

1980年

大手電機メーカーが一斉参入

日本語ワープロ市場が一気に活発になる。

富士通

OASYS 100。親指シフトキーボードを採用し、高速な日本語入力を可能にした。

NEC

NWP-20。後の「文豪」シリーズへつながる。

キヤノン

キヤノワード。

沖電気

レターメイト80。

各メーカーが、入力方式そのものから競争した時代だった。


1981年

専用ワープロの競争が本格化

日立も日本語ワープロ市場へ参入。

専用ワープロは、日本語入力、編集、保存、印刷を一台で完結できることが大きな強みだった。


1982年

「100万円を切る」時代へ

富士通がMy OASYSを発表。日本語ワープロとして初めて100万円を切る製品となった。

NECも「文豪」につながる低価格機を展開。100~150万円程度まで下がり、中小企業でも導入しやすくなった。

ここから起こったこと

「会社に一台」だったワープロが、少しずつ個人の机へ近づき始める。


1983年

専用機とパソコンソフトが分岐する

ここが重要な年である。

管理工学研究所「松」

NEC PC-9801向け日本語ワープロソフトとして、「松」が登場。

私が最初に本格的に使ったワープロソフトでもある。

当時の価格は約12万8,000円。

高価だったが、専用ワープロを買うことを考えれば、PCを持っている人にとっては合理的だった。

日本語入力には「松茸」が使われた。

ジャストシステム「JS-WORD」

後の一太郎につながる日本語ワープロ「JS-WORD」も登場。

この年の意味

ここから、専用機型ワープロとパソコン+ワープロソフトという二つの道が並走する。


1984年

jX-WORD

ジャストシステムがIBM JX向けjX-WORDを発売。一太郎誕生まであと1年。

専用機

NEC「文豪」シリーズなど、低価格パーソナルワープロが普及し始める。


1985年

一太郎誕生

2月

jX-WORD太郎(PC-9801向け・ATOK3搭載)。

8月

初代 一太郎(ATOK4搭載)。価格、58,000円。

管理工学研究所「松」のほぼ半額だったため、強い価格競争力があった。

PC用主要ワープロ

  • 松
  • 一太郎
  • OASYS系
  • その他多数

専用機

家庭向けの小型・低価格化も急速に進む。


1986年

一太郎Ver.2

ATOK5。編集・変換・印刷機能を強化。

PC-9801の普及とともに一太郎も急速に利用者を増やす。

松

「松86」などを展開。まだ松も強かった。


1987年

一太郎Ver.3――黄金時代の始まり

一太郎Ver.3。ATOK6。

処理速度改善、花子との連携などを実現。ジャストシステム自身が「初期一太郎の集大成」と位置づける完成度の高い製品だった。

一方、専用ワープロでもAI化

シャープはAI変換機能を搭載したWD-540を発売。「AI」という言葉は、実はワープロでも1980年代から使われていた。


1988年

専用ワープロが高度化

東芝がTOSWORD JW-1000AIを発売。AI推敲機能まで搭載した。

一太郎

Ver.3が引き続き高い人気。

松

管理工学研究所も改良を続ける。


1989年

専用ワープロ市場の絶頂期

ワープロ専用機の年間出荷台数は、271万台。累計販売台数も1,000万台を突破。

当時の代表的な人気ブランド

  • シャープ「書院」
  • 東芝「Rupo/TOSWORD」
  • NEC「文豪」
  • 富士通「OASYS」
  • 日立「with me」
  • 松下「スララ」など

この4~6ブランドが家電量販店のワープロ売場を競っていた。

一太郎Ver.4

JustWindowを採用。MS-DOS上に独自のウィンドウ環境を構築。花子などを切り替えて利用できた。

PC用ワープロ

一太郎が事実上の中心へ。


1990年

専用ワープロはさらに高機能化

東芝はDTP機能搭載機を発売。NEC「文豪mini5」も大型液晶を搭載。東芝にはAI・連想辞書搭載機も登場した。

パソコン側

DOS/V登場。「日本語を扱うには日本独自PCが必要」という時代が終わり始める。


1991年

小型化競争

富士通OASYS Pocket。東芝RupoにはLotus 1-2-3搭載モデルも登場。

Microsoft

日本語版Wordの本格展開が始まる。


1992年

二つの市場が並立

専用機

一般家庭へさらに浸透。年賀状、町内会文書、PTA文書などにも利用される。

パソコン

一太郎が依然として強い。Windowsも徐々に普及。


1993年

一太郎Ver.5

ATOK8。AI変換・文脈処理を強化。Windows、Macintosh、OS/2など複数環境へ展開。

専用ワープロ

累計販売台数が2,000万台を突破。


1994年

一太郎がシェア1位

公正取引委員会資料でも、1994年当時、日本語ワープロソフト市場の第1位は一太郎だったことが確認できる。過半のシェアを維持していた。


1995年

Windows 95という大転換

日本語Windows 95登場。ここから歴史が大きく変わる。

一太郎

Ver.6系列。Windowsへ本格移行。

Word

Windowsとの親和性を武器に拡大。

専用機

インターネット、カラー画像、表計算などの多目的利用でPCに差を付けられ始める。


1996年

一太郎7

Windows 95対応32bit版。

専用機の最後の抵抗

NEC文豪にはインターネット・FAX・カラーコピーを組み合わせた機種が登場。専用機とPCの境界が曖昧になっていく。


1997年

Wordが急伸

一太郎8。累計出荷1,000万本規模へ。しかしWordが急速に伸びる。

1997年 PC Watch読者アンケート

順位 ワープロ 利用率
1位 Microsoft Word 49%
2位 一太郎 36%
3位 Lotus WordPro 2%
4位 ClarisWorks 2%
5位 MS Works 1%
― その他 6%

1998年

Word 98が一太郎を逆転

Microsoftは、日本市場向けに一太郎を徹底研究。公文書を約2,000枚集め、Wordで再現しながら罫線・縦書き・日本語レイアウトの弱点を改善した。Word 98で一太郎を逆転したとされる。

一太郎9

JTD形式、ドキュメントナビ、ATOK12などへ進化。


1999年

専用機が終盤へ

NECは文豪シリーズ最終機 JX-750を発売。東芝も最後のRupo JW-G7000を発売した。


2000年

専用ワープロ時代の終幕

専用機の累計販売台数は3,000万台を突破。しかし年間販売台数はわずか26万台(1989年の1割以下)。松下が専用ワープロから撤退。他社も相次いで撤退へ。


2001年

シャープも専用ワープロ生産終了

最後まで残った有力ブランドの一つ、シャープ「書院」も生産を終える。約20年間続いた家庭用専用ワープロの時代が終了した。


2002年〜2003年

一太郎12 / 13――「ナレッジウィンドウ」

文章を書きながら情報を調べ整理する「インテリジェントドキュメントプロセッサ」へ。


2004年〜2009年

一太郎2004〜2009――西暦名称・情報処理技術遺産認定

西暦表記へ統一。2009年には初代一太郎が「情報処理技術遺産」に認定される。


2010年〜2024年

専門道具へ昇華――縦書き・出版・個人制作の時代

Wordが全般標準となった後も、一太郎は縦書き、日本語組版、冊子作成、電子書籍など、日本語の専門道具としての強みを磨き生き残る。


2025年〜2026年

50年の集大成――一太郎2026と生成AI

初代JW-10から約半世紀。2026年の「一太郎2026」には文章作成アシスタント「ATOK MiRA」を搭載。

1978年に人間が「かな」を打ち込んで漢字へ変えた時代から、2026年には「書いた文章をどう相手に伝えるか」までAIが支援する時代へ到達した。


専用ワープロ黄金期の主要ブランド

メーカー ブランド 特徴
東芝 TOSWORD / Rupo 日本語ワープロの元祖。かな漢字変換、AI、OCRなど先進技術
シャープ 書院 家庭向けで大きな存在感。コンパクト化・カラー化にも積極的
NEC 文豪 ビジネスから家庭向けminiシリーズまで幅広く展開
富士通 OASYS 親指シフト、日本語高速入力で根強い支持
日立 WordPal / with me 小型・ポータブル化などで展開

1998年度 業務利用実態例

製品 利用数 概算比率
Microsoft Word 92 約61%
一太郎 52 約35%
OASYS 4 約3%
その他 2 約1%

50年の歴史を振り返って

1978年の630万円の巨大な機械から始まり、職員室や家庭を席巻した専用ワープロ、PC-98時代の「松」と「一太郎」、Windows時代のWord、そして現代の生成AI。

道具は劇的に変わっても、「自分の思いや言葉を相手に伝えたい」という人間の本質は変わっていない。この約50年の歩みを胸に、新しいテクノロジーを活用していきたい。

コラム一覧へ戻る公式ホームへ戻る